学校長 菅原出の「飛耳長目」 - 2022年12月7日
Dec 07, 2022こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。
ロシアによるウクライナ侵攻から間もなく10カ月になりますが、戦争の終わりはまったく見えてきません。
12月5日には、先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)、オーストラリアが、新たな対露制裁を発動させました。ロシア産原油の取引価格の上限を1バレル=60ドル(約8千円)という市場価格より安く設定し、この価格を上回るロシア産原油の海上輸送に関する保険や海運、融資を認めないというものです。
なんだかわかりにくい制裁ですが、世界の海上輸送保険を手がける企業の9割がG7諸国を拠点にしていることから、理論的には1バレル=60ドル以上の価格のロシア産原油の海上輸送には欧米の保険会社による保険が掛けられなくなり⇒ロシア産原油を運ぼうとする船会社がなくなることから⇒結果としてロシアの石油収入に打撃を与える、ということを狙ったものです。
ところが米ウォールストリートジャーナル紙の報道によれば、世界の海運業界にはこうした西側の規則や法令に従わない「影の船団」が存在するそうです。かつてイラン産やベネズエラ産の原油を運んでいたタンカー70隻がウクライナ侵攻以降、ロシアから原油を運ぶのに使われていると伝えられています。
しかも、最近古いタンカーを購入したいとの申し出が業界で殺到しているそうで、古いタンカーの価格が急騰しているそうです。「影の船団」がロシア産原油の取引を拡大させる準備を進めている可能性は十分にあります。
今回の新たな制裁措置の発動後も、要するに欧米保険会社の保険を付けずに輸送するリスクさえとれるのであれば、ロシア産原油の取引自体は引き続き合法です。ちなみに中国もインドも先進国の新たな制裁に参加する気はなく、ロシア産原油を購入し続ける意向を示していますので、買い手がいればロシア産原油を運んで一儲けしようという会社は出てくるのだと思います。
このような中途半端な制裁でロシアを追い込むのは非常に困難だと言えるでしょう。この辺の基本的な背景は、大場紀章先生の「エネルギー安全保障論①ウクライナ戦争後の世界エネルギー秩序を理解するために」が参考になりますので、この機会に是非ご視聴ください。
また12月5日の米ニューヨーク・タイムズ紙にも面白い記事が出ていました。欧米諸国は半導体やAI(人工知能)、ロボットなどハイテク製品のロシアへの輸出規制をかけているため、ロシアの兵器生産に支障が出ると言われてきました。テレビでも「ロシアはもう兵器を生産できない」と言っている「専門家」の話がよく報じられていましたね。
ところが11月23日にロシアがウクライナの広範囲にわたる発電所等インフラ施設を攻撃する際に使用したミサイルの残骸を英国の専門家が調査したところ、9月以降にロシアで製造されたものであることが判明したというのです。ロシアは、欧米による制裁前から半導体などを大量に備蓄していたのかもしれませんが、制裁発動から半年以上経っているにもかかわらず、ロシアが兵器を生産し続けていることが明らかになったわけです。
もう一つ面白い記事は12月6日の米ウォールストリートジャーナル紙のものです。バイデン政権はこれまで大量の兵器をウクライナに供与してきたことは周知の事実ですが、米国がウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」を密かに修正し、ロシアに長距離ミサイルを発射できないようにしていた、というのです。バイデン政権は「ウクライナ軍の支援とロシア政府との関係が悪化するリスクとのバランスを取ろうと、多大な努力を払ってきた」と同紙は書いています。
ちなみにこの記事の情報源は「複数の米当局者」となっていますので、米政府が意図的にこの事実をメディアにリークしたと考えるべきでしょう。なぜでしょうか?
終わりの見えない戦争を前に、バイデン政権は、停戦、もしくは和平交渉を進めたいという意志をロシア側に伝えようとしているのかもしれません。ウクライナと米国の関係悪化にもつながりかねない情報リークの背景は非常に興味深く、今後の動きに注目したいと思います。
12月1日には奥山真司先生の「地政学で読む国際情勢②古典地政学の源流」が公開されています。是非ご視聴ください。
世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが、今こそ必要とされています。
是非一緒に学んでいきましょう!
菅原 出
OASIS学校長(President)