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リベラル・オーダーを突き崩すトランプ政権

ウクライナ トランプ 学校長 飛耳長目 Mar 03, 2025
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.過去3年間と完全に決別するトランプ外交

国際報道は、先週金曜日のホワイトハウスにおけるトランプ・ゼレンスキー会談決裂の話題で持ちきりです。私も30年以上国際情勢を追ってきましたが、国家の指導者同士がテレビカメラの前であのような言い争いをする場面は記憶にありません。

トランプ政権が発足してからまだ一カ月ちょっとしか経っていませんが、この間、劇的な展開が次々と起き、世界に衝撃を与えています。

トランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領と電話で会談したことを発表し、「ロシアとウクライナの戦争終結に向けて、交渉を始めることで合意した」と明らかにしたのは2月12日でした。それから米露高官がサウジアラビアの首都リヤドで初会合を開催したのは2月18日。とんでもないスピーディーな展開です。

この米露会談では、米政府側はルビオ国務長官を筆頭にウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官、トランプ氏の信頼の厚いウィトコフ中東担当特使が参加。対するロシア側もプーチン大統領の側近の一人ウシャコフ大統領補佐官とラブロフ外相が参加するなど、いきなり超ハイレベルの高官同士が顔を合わせました。

もうこの会談のインパクトは忘れられていますが、ここで米国とロシアは、外交関係を正常化させる方向に舵を切り、戦争終結に向けて協力し、戦後の経済協力や地政学的な協力を視野に入れた話し合いを続ける、と宣言。ロシア・ウクライナ戦争の解決に向けた交渉チームを任命することで合意しました。

つまりこの時点でトランプ政権は、「モスクワを孤立させ、戦闘を続ける意思がある限りキエフを支援する」というバイデン前政権の過去3年間の政策と完全に決別していました。

2.トランプとゼレンスキーの認識ギャップ

ウクライナが懸念するのは当然でしょう。ゼレンスキー大統領は2月17日のドイツ公共放送ARDの番組で「米国が望んでいるのは『停戦』だけで、それは勝利ではない」と発言。「米国はプーチンを喜ばすために都合のいいことばかり言っている。会ってすぐに成果を出したいからだ」と述べてトランプ政権を批判しました。

これに対してトランプ氏は、「考えてみてほしい。さしたる成功も収めていないコメディアン、ゼレンスキーが、勝てる見込みのない、始める必要もなかった戦争に、3500億ドルもの費用をかけて参戦するようアメリカ合衆国を説得したのだ。しかし彼は、アメリカ合衆国、そして『トランプ』がいなければ、その戦争を決着させることは決してできない」。

トランプ氏はウクライナの将来の安全保障は米国の問題ではないことまで示唆し、「この戦争は、欧州にとって米国よりもはるかに重要だ」。「我々には大きな美しい海が隔てている」と述べて、遠く離れた欧州の戦争など、米国には関係ないのだ、すぐに支援をやめてもいいのだぞ、と脅しました。

この後、米・ウクライナ両政府の事務方が、何とか鉱物資源の権益に関する取引をまとめる方向で努力したのですが、結局、ゼレンスキー大統領の認識もトランプ大統領の認識も変わることなく、先週のホワイトハウスでの「衝突」に発展してしまいました。

ゼレンスキー氏は、これまでであれば、「ウクライナは民主主義を守るために戦っているのだから、米国はじめ西側諸国がウクライナを支援するのは当然」であり、「この戦いはウクライナだけでなく民主主義社会全体VS侵略国ロシアの戦いなのだから」というロジックを使えば、国際社会から支援を受けることが出来ました。西欧諸国は今もこのロジックでウクライナ支援を続けると主張していますが、トランプ政権には全く通用しません。

トランプ政権はこの対立構図自体を完全に否定しており、トランプ大統領は「ウクライナの安全保障は米国とは関係ない」とまで主張しているのです。そんなトランプ氏に対してゼレンスキー氏は、「ロシアは悪だから、悪人と取引しようとしても無駄だ」と説得しようとしたわけですが、完全に逆効果でした。

3月2日にCNNテレビに出演したウォルツ大統領補佐官は、「我々には、ゼレンスキー大統領が戦争の終結に向けて、話し合う準備ができているかが分からなかった。首を振り、腕を組むなど信じられないほど無礼だった」と振り返り、あの態度は「まったく受け入れられない」とまくし立てるように主張しました。その上で「ウクライナには我々と、そして、最終的にはロシアとも取り引きし、戦争を終えることができる指導者が必要だ」と述べ、ゼレンスキー大統領が相手では協議を進めるのは困難だとの認識を示しています。

今後トランプ政権はゼレンスキー政権に対し、米国の要求に応じるまでさらに強い圧力をかけることになるでしょう。

3.世界秩序は米国に対する武器

マルコ・ルビオ国務長官は、「アメリカ・ファーストの外交」とは何かについて次のように説明していました。

これまでの米国は、「自国の核心的利益」よりも「世界秩序(グローバルオーダー)」の維持を優先させてきた」。その一方で、「他の国々は自国優先主義の行動をとってきた」、つまり他国は米国を犠牲にして世界秩序を「利用してきた…」。それゆえ 「戦後の世界秩序は時代遅れであるだけでなく、今や私たちに対する武器として使われている…」。

この認識からは、世界秩序を尊重したり維持するという発想は生まれません。なぜなら世界秩序の維持は米国の利益に反するのですから。

トランプ政権は、米国内においては、人種差別の撤廃・ジェンダー平等・LGBTQ+の権利・環境保護といった社会的正義を追求するいわゆる「ウォークネス」に反対する政策を急激に進めています。それと同時に、国際的には欧米民主主義諸国が築き上げてきたリベラル・オーダーを無視、軽視、もしくは突き崩すことをよしとしています。

今後、国際秩序が崩れていく中で、各国、どうやって自国の安全を確保していけばいいのか、日本も真剣に考える必要があるでしょう。

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2月には土屋貴裕先生の新シリーズ「中国におけるビジネスリスクと対策」と、奥山真司先生の新シリーズ「アジア・ファースト トランプ政権高官が語る新・軍事戦略」が公開されています。是非ご視聴ください。

また3月17日には、OASIS講師の渡瀬 裕哉先生(国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員)、畔蒜 泰助先生(笹川平和財団 上席研究員)と土屋 貴裕先生(京都先端科学大学 経済経営学部 准教授)をお招きして、緊急オンラインセミナー「トランプ第二期政権と激変する国際秩序」を開催致します。

こちらも奮ってご参加ください。

世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。

菅原 出
OASIS学校長(President)


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