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OASIS学校長 菅原出の飛耳長目 - ブリンケン長官のサウジ訪問で露呈した米国の影響力の低下

学校長 飛耳長目 Jun 15, 2023

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

だいぶ更新が出来ておらず申し訳ありません。先週は、OASIS講師の鈴来洋志先生が案内をしてくださった「朝鮮半島安全保障ツアー」に参加してきました。

釜山では豊臣秀吉軍が構築した倭城を訪問し、海軍の装備展である「MADEX2023」を観て、韓国新幹線(KTX)でソウルまで北上。翌日には北朝鮮との国境・鉄原を訪問し、最終日は仁川上陸記念館やマッカーサー像を観るという非常に充実したツアーでした。

フィールドワークならではの、肌で感じ、歴史に思いを馳せる、地に足の着いたよい学びの機会を得ることが出来ました。OASISでも来年は海外研修ツアーを企画したいと思います。

さて、この間も国際情勢は激しく動いております。米中両海軍艦艇のニアミス事件も発生し、ウクライナでは遂にウクライナ軍による反転攻勢が開始されたことも伝えられています。

この記事のポイント

  • ブリンケン長官のサウジ訪問で米・サウジ関係の実態が明らかになった。
  • バイデン政権が求めていたサウジ・イスラエル関係正常化や人権問題では進展は見られず。
  • サウジは「圧力には屈しない」姿勢や中国との関係重視を宣言し、米国の要求に応じない姿勢を示した。
  • バイデン政権は中東の新たな関係形成や中国の影響力に直面し、困難を抱えている。

なぜバイデン政権は対サウジ外交を活発化させているのか?

私が注目している中東でも興味深い動きが起きています。6月6日~8日、ブリンケン米国務長官がサウジアラビアを訪問しました。5月にはサリバン大統領補佐官がサウジを訪問したばかりですから、バイデン政権はここに来て対サウジ外交を活発化させていることになります。

なぜでしょうか?

ブリンケン長官は、サウジへの出発前日の記者会見で、サウジ・イスラエル関係正常化の可能性について協議する、と語っていました。また同長官は、サウジに批判的なツイートをしたために投獄された男性を含む3人の米国市民に対する渡航禁止令の解除を求めると見られていました。さらに、最近中国に寄り過ぎていると思われるサウジをはじめアラブ諸国を牽制し、米側に引き戻すことも狙っていたと言われています。

3月に中国が仲介してサウジ・イランの関係正常化が発表されて以来、中東では「堰を切った」かのように新しい関係を求める外交が展開されています。サウジはアサド政権のシリアとも関係を修復し、エジプトもイランとの関係改善に動き出しました。

米国は文字通り「蚊帳の外」に置かれたまま、中東で進行する新しい秩序形成の動きに取り残されているため、さすがのバイデン政権も「このままではやばい」と思い始めたのでしょう。

成果の乏しかったブリンケン長官のサウジ訪問

8日にブリンケン長官は、サウジのアル・サウド外相と共同記者会見を行い、訪問の成果について発表しました。ブリンケン氏は、イエメン内戦終結に向けたサウジの努力や先のスーダン内戦をめぐるサウジの仲介などを例に挙げて、サウジを「戦略的なパートナー」だと持ち上げました。

しかしあまりにも短く具体性に乏しい報告だったことから、記者からすぐに質問が飛びました。「イスラエルとの関係正常化はどうなったのか?そのためにサウジが条件にしていた米国からの原子力協力について成果はあったのか?人権問題で進展はあったのか?」と。

アル・サウド外相は、「私たちは、米国をその(原発)建設計画に入札する参加者の一人として迎えることができることを望んでいる。他にも入札しているところはあるが、当然、私たちは世界最高の技術でプログラムを構築したいと考えている。だからそのためには一定の合意が必要になる。ただし私たちの間には意見の相違があるため、民生用原子力技術で協力できるようなメカニズムを見つけるために努力しているところだ」と述べました。

回りくどい言い方ですが、要するに、米国による原子力協力は、イスラエルとの国交正常化の条件ではなく、あくまでサウジ政府が計画している原発建設計画に米企業が入札に参加できるかどうか協議しているだけだ、と述べたのです。しかも「意見の相違」があるため進まなかったというのです。

またイスラエルとの国交正常化ついては、「パレスチナの人々のために平和への道筋を見出すことなくその課題に取り組むことはない」と述べて、パレスチナ問題についての進展なしにイスラエルとの関係正常化は困難との立場を明確にしました。

人権問題についてもアル・サウド外相は、これまでにサウジ国内で様々な改革がなされてきたことについて触れたうえで、「私たちは常に友人との対話にオープンだが、圧力には応じない」と述べて、政治犯や渡航禁止の対象となった米国人の解放について、米国からの圧力に応じるつもりはない、とブリンケン国務長官の目の前で断言したのです。

さらに中国との関係についてアル・サウド外相は、「中国は世界第二位の経済大国で最大の貿易相手国だ。当然、中国とは多くの交流があり、中国は重要なパートナーである。この協力関係は、今後も拡大していく」と述べました。

これに対しブリンケン長官は「私たちは米国と中国のどちらかを選ぶよう求めているわけではない」と説明し、サウジ・イランの国交正常化における中国の役割についても、「地域の平和と安定に寄与する」として、中国の役割を肯定的に評価せざるを得ませんでした。

バイデン政権は、もはや中東の「戦略的パートナー」に対し、「中国ではなくわれわれを選べ」とさえ言えなくなっているのです。強要したり圧力をかけても、相手は中国の側に行ってしまい中国を利することになると考え、ひたすら宥和政策でいくしかない、と考えているのでしょう。

こんな姿勢では、アラブの独裁者からますます軽く見られるだけだと思いますが…。

改善見込めない米・サウジ関係

バイデン政権は、サウジとイスラエルの関係正常化を進めることも、米市民の渡航禁止措置を解除させることも、また中国の中東における影響力を後退させることにも失敗したようです。

しかも、ブリンケン氏がサウジを訪問した6日、米男子ゴルフのPGAツアーが、サウジ政府系ファンドPIFの支援を受けるLIVとの事業統合に合意したという発表がありました。これは日本のメディアでも大きく取り上げられましたね。この発表のタイミングは、ブリンケン氏のサウジ訪問に合わせたのだろうと思います。

PGAは、トランプ氏保有のゴルフ場との契約を解除し、トランプ前大統領との関係を悪化させていたことから、トランプ氏はこの合意発表を受けて、「素晴らしいゴルフの世界にとって美しく、魅力的な合意だ。みんな、おめでとう!」とコメントしていました。

PGAの幹部はこれまで人権問題でサウジ政府を非難していましたので、今回の合意に米人権団体は憤慨しています。

バイデン政権がサウジに対して極めて宥和的な政策をとっているにもかかわらず、サウジ側はトランプ氏を喜ばすことでバイデン氏や米国内の人権派の顔に泥を塗ったことになります。

米国が「戦略的なパートナー」だと位置づけるサウジアラビアは、もはや米国の思い通りには動かない、コントロールできない存在になっています。少なくともバイデン政権下では、米・サウジ関係の改善は見込めそうにありません。

「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶこと必要になっています。

6月30日には第47回外交・安全保障月例セミナーでOASIS講師の奥山真司先生が「アメリカで内戦は起きるのか―激動のアメリカン・ポピュリズム―」というテーマでご講演されます。OASIS会員は無料で参加できますので、奮ってご参加ください。
https://oscma.org/diplomatic-security-monthly-seminar/

是非一緒に学んでいきましょう!

菅原 出
OASIS学校長(President)