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エスカレートするイスラエルによるイラン挑発キャンペーン

イスラエル ハマス 学校長 飛耳長目 Jan 10, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

新年あけましておめでとうございます!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

今年もまた、OASISではたくさんのイベントを計画しております。若い皆さんを中心に、外交安全保障に関心を持つ仲間たちと共に学ぶ活動を続け、確かな情報と知見を共有し、有為な人材を輩出するコミュニティを作っていきたいと思います。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。

イランを挑発するイスラエル

昨年末にシリアでイラン革命防衛隊の高官が殺害されたのに続き、レバノンではハマス政治部門の幹部が爆殺され、イランでは大規模な爆弾テロが発生して100名以上の死傷者が発生。その翌日にはイラクの首都バグダッドでイラク民兵幹部が無人機で暗殺される事件が発生しました。

短期間にこれほどの重大事件が立て続けに起きているのは、明らかに異常です。

イスラエルは昨年12月25日に、シリアのダマスカス近郊でイラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問を殺害、イランとの緊張が高まりました。イスラエルは12月29日から30日にかけても、立て続けにシリアで親イラン派武装勢力の拠点を攻撃し、20名以上の戦闘員を殺害したと報じられています。

1月2日には、レバノンの首都ベイルート南部でハマス政治部門ナンバー2にあたる幹部サレハ・アルーリ氏らが無人機攻撃とロケット弾攻撃で殺害されており、ハマスはイスラエルの攻撃だと断定しています。

アルーリ氏はハマス軍事部門の創設者の一人で、政治部門の副代表という要人です。

さらに1月3日には、イラン南東部ケルマン州で大規模な爆発が2回あり、少なくとも89人が死亡し、約170人が負傷したと伝えられました。テロの現場は2020年に米軍に殺害されたイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官の墓地の近くで、同司令官を追悼するイベントが開催されていました。

このテロに関して過激派イスラム国(IS)が4日にSNSで犯行声明を出していますが、イランはイスラエルの犯行だと疑っています。イラン革命防衛隊と近いタスニム通信は、今回ISが出した声明では、それまで使っていた「Bilad Fars(ペルシアの国)」や「Wilayah Khorasan(ホラサン州)」ではなく、「イラン」という国名が使われたり、自爆テロリストの写真を公表するなど、これまでの同組織の声明と比較して不自然な点がいくつもあることや、声明発表のタイミングなども過去のパターンとは異なる点から、実行したのはイスラエルとの見方を示しています。

これまでもイランは、ISのことを”米国やイスラエルがつくった殺人集団”だと決めつけていますので、今回ISが犯行声明を出したところで、イランのイスラエルに対する猜疑心がなくなることはないでしょう。

いずれにしても、一方的に攻撃を受けているイランは、何らかの報復行動をとらざるを得なくなるでしょう。

今後もイスラエルは直接的にイラン国内やイラン権益を狙った攻撃を行い、イランが我慢しきれずに報復攻撃してくるまでエスカレートさせてくるものと思われます。

親イラン派武装勢力への攻撃を激化させる米軍

1月1日にイラク北部エルビルの空軍基地に無人機による攻撃が行われ、米軍関係者1名が重傷を負ったことを受けて、米軍は4日、首都バグダッドで親イラン派武装組織の幹部を殺害しました。これも大変な事件です。

米軍は、バグダッド東部を車両で移動中だったモシュタク・タリブ・アル・サーディとその仲間1人を無人機で攻撃したと発表しています。バイデン政権がイラクの民兵組織の指導者を無人機で追跡して暗殺したのは今回が初めてです。

昨年10月にガザ戦争が始まった当初は、米国は、紛争の拡大を懸念してシリアやイラクの親イラン派武装勢力に対して抑制的な反撃しかしていませんでした。10月にはシリアにある武装組織の武器庫や訓練施設を破壊し、人的な被害が出ないような空爆しか行わず、しかもイラク国内での攻撃は避けていました。

しかし、それでも武装勢力の攻撃が一向に収まらないため、11月になって米軍は初めてイラク国内の武装勢力の拠点に対する攻撃に踏み切りましたが、それでも当初は施設を破壊するだけでした。それが、やがて戦闘員も殺害するようになり、今回、イラク治安部隊の指揮官も兼ねるような民兵組織の幹部を殺害するところまで、米軍は攻撃のレベルを少しずつ段階的に引き上げてきたのです。

今回の攻撃を受けて、イラク政府や親イラン派武装勢力がどのような行動をとってくるか、注意が必要です。これでも米軍に対する攻撃が止まらないようであれば、米軍はさらに大胆な攻撃に移行せざるを得ず、そうなればイラク国内の反米感情が強まり、かつてのような大規模な反米集会などが展開されイラク駐留米軍の活動に支障が出る、もしくはバグダッドの米大使館に対する抗議行動や襲撃に発展する可能性も排除できないでしょう。

ガザ戦争「長期戦」に備えるイスラエル

イスラエルのネタニヤフ首相は12月30日の記者会見で、パレスチナ自治区ガザでのハマス掃討作戦は今後「何カ月も続く」と断言しました。また1月1日にイスラエルは、ガザ地区における地上部隊の構成を調整すると発表。今後、5個旅団(推定数千人)をガザ地区からローテーションさせる計画で、その一部は入れ替わる可能性もあるとのことです。

イスラエル軍のハガリ主任報道官は1日夜、「これらの適応は、2024年に向けた計画と準備を確実にするためのものだ。戦争の目標には長期戦が必要であり、我々はそれに応じて準備している」と説明しています。

イスラエル軍は、ガザでの長期戦に備え、大規模部隊ではなく、より小規模部隊による精密作戦へ移行する方針を示しており、この点では米政府の助言に従い、戦術を一部変更しつつあるのかもしれません。

ネタニヤフ氏は上述した記者会見で、ガザとエジプトの境界掌握を目指す考えも示しました。イスラエルは、戦後構想に関する米政府の警告や忠告を聞かずにガザ戦争及びその後の統治を自分たちで進めるつもりだと思われます。

こうした状況にもかかわらず、イスラエルが米国の支持を獲得し続けるためには、「イランの脅威」を強調するしかありません。イスラエルがガザ戦争を継続させつつ、近隣の親イラン派武装勢力やイランに対する攻撃を激化させているのは、そのためだと思われます。

イスラエルは、ハマスという軍事的に圧倒的に劣る相手に対する攻撃を続けることで国際的な非難を浴びています。この状況が続けば米国の支持もますます低下してしまいます。その流れを食い止め、逆転させるために、イスラエルは「イラン」というより強大な敵の脅威にさらされ、それに対して戦っているという姿勢を見せることで、米国の世論(国際世論ではない)への働きかけを強める狙いだと思われます。

すでにイスラエルは、昨年末にはイランに対する大規模なサイバー攻撃も仕掛けています。今年に入ってから発生している数々の事件は、ほぼすべてこのような文脈で起きていると理解すべきでしょう。

この流れは続き、イスラエルとイラン、米国とイランの緊張が当面高まることになるでしょう。 これだけ攻撃を一方的に受ければ、イランも何らかの報復行動をとらざるを得なくなります。イランがどこまで戦略的忍耐を続け、イスラエルの挑発に対して冷静な対応を続けられるか、それとも歯止めの利かない報復のエスカレーションに発展してしまうのか、注目深くみていく必要があります。

「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。
今後とも一緒に学んでいきましょう!

菅原 出

OASIS学校長(President