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米軍報復攻撃から読み解く米・イラン両政府のシグナル

イスラエル ハマス 学校長 飛耳長目 Feb 08, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.親イラン派武装勢力と米軍の攻防

2月2日、遂に米軍がシリアやイラクの親イラン派武装勢力の拠点に対する報復攻撃を行いました。「125発の精密誘導弾を使い85カ所の標的を空爆」などと聞くと凄まじい攻撃が行われたかのような印象を持ち、「紛争拡大か?」と懸念されるかもしれません。

結論から言えば、今回の報復攻撃により米・イラン間の全面戦争など、より大きな軍事衝突に発展する可能性は低いと考えられます。以下、その理由について説明していきます。

これまでもお伝えしてきた通り、昨年10月のガザ戦争勃発以降、シリアやイラクにいる親イラン派民兵組織は、シリアやイラクに駐留する米軍の拠点に対してロケット弾や無人機を使った攻撃を行ってきました。

この「親イラン派武装勢力」というのは、イランが武器や資金や訓練を提供して事実上コントロールしているのですが、イランの狙いは、米国と全面戦争をすることではありません。

米国はガザ戦争が周辺地域に波及して紛争が拡大することを懸念していますから、イランはあえて親イラン派武装勢力を使って米軍を攻撃させ、「イスラエルに圧力をかけてハマス攻撃をやめさせないと紛争が拡大してしまいますよ」と米国を脅しているのです。

これまでに親イラン派武装勢力は、160回以上もシリアやイラクの米軍基地に大小さまざまな攻撃をしてきました。たいていは米軍に迎撃されたり、米軍側に負傷者が出ないような場所と時間に攻撃がされていますので、大きな被害は出ていません。

それでも、時々米軍関係者に負傷者が発生することがあり、その都度米軍は報復攻撃をして、親イラン派武装勢力の攻撃を抑止しようと努めてきましたが、これまでのところ上手くいっていませんでした。

そして1月28日、遂に親イラン派武装勢力の無人機攻撃で米兵3人が死亡する事件が発生しました。もちろん昨年10月にガザ戦争が始まって以降、米兵の死者は初めてです。

2.米軍第一弾報復攻撃に至る過程

当然、バイデン米大統領はすぐに声明を出して報復を宣言。また米兵に死者が出たことで、ワシントンではイランの責任をとらせるべく、強硬な報復策をイランに対してとるべきとの声が強まりました。

バイデン大統領が「報復攻撃措置を決めた」と発表したのは、事件発生から2日後の1月30日でした。もちろんその内容については言及していません。

同日、今回の攻撃の実行犯だと疑われているイラクの親イラン民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」が、「イラクとシリアにおける米軍への攻撃を停止する」と一方的に発表しています。ロイター通信は、カタイブ・ヒズボラが、イランからの圧力によって、攻撃停止を発表するよう迫られた、と報じました。

同じ日に、ニューヨークの国連イラン代表部の報道官は、「イランの領土、あるいは国境を越えてイランの利益や国民を攻撃するいかなる勢力も、断固とした強硬な対応に直面するだろうというのが、われわれの原則的な方針だ」とウォールストリート・ジャーナル紙に語っています。イラン政府は、「イランの領土とイラン人を攻撃するな」と念を押したのです。

米各紙は、バイデン大統領に提示されている攻撃オプションとして、①シリア、イラク、イエメンにいるイラン革命防衛隊クッズ部隊に対する攻撃、②紅海のイラン革命防衛隊が管理する船舶への攻撃、③米軍への攻撃に直接責任のある親イラン派民兵組織の拠点への攻撃、④イラン国内の軍事拠点の攻撃があげられ、④の可能性は低いため、①~③ではないかとの観測を出していました。

そして2月2日に報復攻撃が行われたのですが、バイデン政権がとったのは、上記の③のオプションであり、イランの警告に沿う形でイラン革命防衛隊の人員に被害が出ないような攻撃が選択されました。

今回の攻撃は、主に親イラン派民兵組織の持つ“軍事施設”を狙ったもので、彼らの組織の高官やイラン革命防衛隊高官といった“要人”を標的としたものではなかったのです。

3.イランの警告とバイデンの選択

さらに1月30日に「報復を決めた」とバイデン大統領が明言してから2月2日に実際に攻撃が行われるまでに十分な時間がありましたので、シリアやイラクにいたイラン革命防衛隊の指揮官たちは他国に移動したり、シェルターに隠れることができました。バイデン政権はあえて彼らを逃がす時間を与えたのでしょう。

バイデン大統領のとったオプションは、数ある選択肢の中でもっとも抑制的で、イランの設定したレッド・ラインを尊重したものであり、「想定内の攻撃」であったと言えます。

今回の米軍の攻撃に対するイラン政府の公式声明も極めて穏やかなものでした。「昨夜のシリアとイラクへの攻撃は、冒険的な行動であり、緊張を高め、地域を不安定にする以外に何の結果ももたらさない、米国政府によるもうひとつの戦略的過ちである」とイラン外務省のナセル・カナーニ報道官は語ったのです。

同報道官はさらに、「この地域の緊張と危機の根源はイスラエル政権による占領と、同政権によるガザでの軍事作戦の継続、そして米国の無制限の支援によるパレスチナ人の大量虐殺にある」と述べました。

これは、イスラエルによるガザ攻撃を止めさせれば、中東地域の緊張を緩和させることができるという意味であり、「イラン側から地域紛争を拡大させる意思はない」というシグナルととることができるでしょう。

ただし、米軍は第一弾の攻撃の効果を確認して、第二弾の報復攻撃の作戦を準備していると伝えられています。米国内では、すでに共和党の強硬派等が、「バイデンの攻撃は生ぬるい」としてより強硬な措置を求めています。

そこでイランのハメネイ最高指導者は、「米国がイラン国内を攻撃した場合、反撃に転じるだろう」と述べて再び米国を牽制しています。

このように米・イラン間のシグナルや行動を見る限り、両国間で危機管理のためのコミュニケーションは十分にとられており、エスカレーションは起きないと思われます。ただ、今回のイラン側の反応を見て、バイデン政権は第二弾では少し攻撃のレベルを上げて圧力を強める可能性も排除できません。

引き続き、第二弾、第三弾の米軍による報復攻撃の行方を注意深く分析していきたいと思います。

最後に、OASISクラブ活動のお知らせです。「外交安保実地研修の会」では、2月29日(木)に航空自衛隊府中基地の航空開発実験集団と宇宙作戦群の視察を計画しております。研修は11時集合で1530くらいまでを予定しております。正式な案内は追ってお知らせしますが、参加人数を把握したいので、参加希望者はOASIS事務局まで早めにお知らせください。

「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。

今後とも一緒に学んでいきましょう!

菅原 出

OASIS学校長(President)