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イランの報復攻撃はあるのか? 緊張高まるイラン・イスラエル関係

イスラエル 学校長 飛耳長目 Apr 09, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.イランとの全面戦争リスクを高めたイスラエルの攻撃

4月7日に米CNNが、「イランが今週中に中東でイスラエルあるいは米国の権益を狙った『相当な規模』の攻撃を仕掛ける」と米当局が判断し、米国とイスラエルが「高度な警戒態勢に入り、対応措置の準備を急いでいる」と報じました。

CNNはまた、「米国、イスラエル両国政府はイランによる攻撃は異なった多数の方法で起こされる可能性があると予期し、この事態に対処する態勢づくりを急速に進めている」とし、4日にバイデン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が電話会談をした際にも、「イランによる将来的な攻撃」が主要な議題になったとのことです。

こうした報道を受けて、日本のメディアでも、「イランがいつイスラエルや米国権益に攻撃を仕掛けるのか」といった話題が取り上げられています。

本連載では、これまでもガザ戦争を取り上げ、イランとイスラエルの秘密の戦争やバイデン政権とネタニヤフ政権の対立について解説してきました。ガザ戦争が始まってから6カ月が経過しようというこの時期に、「イランがイスラエルや米国を攻撃」とは、いったいどうなっているのでしょうか?

イランによる報復攻撃の直接的な原因は、4月1日にイスラエルがシリアにあるイランの大使館敷地内の領事館ビルを空爆して、中にいるイラン革命防衛隊の高官たちを殺害したことです。

この日の朝、イスラエルは、F-35戦闘機を飛ばしてシリアの首都ダマスカスの中心部の外交区域にあるイラン大使館敷地内の領事館ビルに6発のミサイルを正確に撃ち込み、イラン革命防衛隊の上級司令官を含む高官7名を殺害しました。イランの外交関連施設への攻撃は、「イラン領土」に対する攻撃に匹敵する行動と見なされますから、イスラエルはイランとの全面戦争のリスクをギリギリまで高める攻撃を仕掛けたことになります。

この攻撃では、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ准将とモハンマド・ハディ・ハジ・ラヒミ准将と5人の将校が含まれていたと報じられています。イランでは彼らの葬儀が大々的に行われましたので、彼らがこの攻撃で殺害されたのは間違いないでしょう。

2.次なる標的イランへと照準を定めるイスラエル

しかし、イスラエルはなぜこのような攻撃に踏み切ったのでしょうか?

昨年10月にガザ戦争が勃発して以来、イスラエルによるガザ攻撃に抗議して、近隣のイスラム武装勢力が様々な行動を起こしてきました。イエメンのフーシ派は、当初は紅海を通るイスラエル関係船やイスラエルに物資を輸送する商船に攻撃を始め、その後はそうした攻撃を阻止しようと軍事作戦を始めた米英軍などとぶつかっています。

レバノンに拠点を置くヒズボラもイスラエルの北部に対してロケット弾や無人機で攻撃を行い、イスラエル軍と小規模な衝突を続けています。

また、イラクやシリアにいるイスラム教シーア派の民兵組織が、イスラエルを支援する米国に抗議する目的で、イラクやシリアに駐留する米軍に対してロケット弾や無人機を撃ち込む攻撃をしています(最近は攻撃を止めていますが)。

これらの武装組織はすべて、イランが軍事支援を行っており、最近では「抵抗の枢軸」という親イラン派武装勢力のネットワークとして知られるようになりました。

今回シリアで殺害されたザヘディ准将をはじめとするイラン革命防衛隊「コッズ部隊」の高官たちは、こうした「抵抗の枢軸」所属の武装組織に対して武器を供給したり訓練を提供するなど様々な軍事支援を提供していた人たちです。

イスラエル軍は、ガザの北部や南部の主要都市を破壊し尽してしまい、もう大規模な攻撃をできる標的が南部のエジプトとの国境の町ラファくらいしかなくなってしまいました。しかしそこにはガザ中から避難してきたパレスチナ人たちが大挙して避難しており、ここに攻撃を加えれば大惨事になるとして、さすがのバイデン政権も必死にイスラエルを抑えています。

現在イスラエルでは、各地でネタニヤフ首相の退陣と総選挙を求める反政府デモが展開されています。すでに数週間前から、ガザ攻撃をめぐるネタニヤフ氏の対応を批判し、人質の帰還を求めるデモが繰り返されているのです。

これに対してネタニヤフ首相は、「戦時に指導者を変えるなど考えられない。今自分が辞めればハマスが喜ぶだけだ」として総選挙には応じない構えです。平時に戻れば総選挙→自身の退陣という未来しかないため、ネタニヤフ氏は「戦時の首相」として居座り続けるためにも戦争を継続、もしくは拡大したいと考えているはずです。

3月29日にガラント・イスラエル国防相は、「われわれはヒズボラを積極的に攻撃する姿勢に移行しつつある」と語り、イスラエルの対ヒズボラ軍事作戦をエスカレートさせることを示唆していました。また、イスラエル軍北部司令部の司令官も、「ガザでの戦闘が大幅に減少していることから、イスラエルはもはやレバノンとの『第二戦線』を恐れなくて済む」と発言していましたので、イスラエルはハマスの次にレバノンのヒズボラとの戦争に本格的に踏み出すのではないか、と筆者は考えていました。

実際、3月末にイスラエル軍はレバノンのヒズボラの拠点に対する攻撃を明らかに激化させていました。そして4月1日にイスラエルは、ヒズボラどころかその支援者であるイランとの直接対決も辞さない危険な領域にまで一気に紛争をエスカレートさせてきたのです。

戦争開始から半年が経ち、ガザでの戦闘が減少してきたことを受けて、ネタニヤフ首相は、戦争を続けるための標的をハマスから、抵抗の枢軸の総元締めであるイランへと振り向けてきたのです。これが、4月1日にイスラエルがシリアのイラン大使館を攻撃した主な理由だと考えられます。

3.イランは「戦略的忍耐」を続けられるか?

ではこうした動きに対してイランはどう出るのでしょうか?

イランでは、この攻撃に対する報復を示唆する発言が飛び交っています。イランの最高指導者ハメネイ師は攻撃の翌日に、「われわれは(イスラエルに)この犯罪を後悔させる」と述べ、「イスラエルは勇敢な我が国の人々の手によって罰を与えられなければならない」と述べました。これは報復をする、という意味のようですが、いつするのかについては何も触れられていません。

7日にハメネイ師の上級顧問のヤヒア・ラヒム・サファヴィ師が、「イスラエルのどの大使館ももはや安全ではなく、テヘランはイスラエルとの対決を正当かつ合法的な権利と見なしている」と述べたことから、イランが外国のイスラエル大使館を攻撃するのではないか、との見方が広まっています。

しかし、5日の金曜礼拝に際して、イランの宗教指導者たちは「戦略的忍耐」という言葉を使い、報復についてあいまいな姿勢を説教に反映させています。金曜礼拝の説教の内容は、事前にハメネイ師事務所と調整して起草されるのが一般的だと言われています。宗教指導者たちは、「イランの反応は忍耐をもってやってくる」と述べて、戦略的忍耐を訴えています。このことから、ハメネイ師はイスラエルとの本格的な戦争を回避することを優先させ、報復を急いでいないのではないか、と筆者は考えています。

実際ここで報復してしまえば、仕掛けた側のイスラエルの思う壺です。全面戦争へと引きずり込まれ、米国とイランの戦争にまで発展してしまうことを、ハメネイ師は警戒しているはずです。

一方のイスラエルは、イランからの報復攻撃があれば、さらに反撃をする準備を着々と進めています。イスラエル軍は3日に防空部隊の増援を命じ、4日には予備役の休暇を停止すると発表。また同日、イスラエルのメディアは、各地のイスラエル大使館がイランによる報復を懸念して一時閉鎖すると報じています。ネタニヤフ首相は閣議で「われわれを傷つけようとする者は攻撃を受けるだろう」と述べています。

「傷つけようとする者」、つまり、イスラエルに対する攻撃の兆候を見せた場合、攻撃をすると宣言しているのです。イスラエルは「イランが報復攻撃の準備をしている」「もしくはミサイルを撃とうとした」としてイランに先制攻撃を仕掛ける可能性すらあるのではないか、と筆者は疑っています。

これだけ国際的に「イランによる報復は時間の問題」というパーセプションが広まってしまっている以上、イスラエルがイランによる攻撃の兆候を察知してさらなる攻撃を行ったとしても、皆納得してしまうのではないでしょうか。

いずれにしても、中東は今、非常に危険な状態にあります。イランがどこまで「戦略的忍耐」を続けられるのか。イランを戦争に引き込むためにイスラエルがさらなる攻撃を仕掛けるのか。今後数日間は、イランとイスラエルの間で何らかの大きな攻撃が行われ、さらに緊張が高まる可能性があります。

「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。

今後とも一緒に学んでいきましょう!

菅原 出

OASIS学校長(President)