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高まる中国の意図や狙いを分析する必要性

中国 台湾 学校長 飛耳長目 Jun 06, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは! オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.中国の軍事演習からみえてくること

5月20日、台湾で、中国が「独立勢力」と見なす与党・民進党の頼清徳氏が総統に就任しました。頼総統は就任演説で「中国の様々な脅威や浸透に対し、私たちは台湾を守る決意を示し、住民の意識を高め、安全保障の法制度を改善しなければならない。防衛力を強化し、経済の安全保障を構築し、両岸関係において安定して原則に基づいたリーダーシップを発揮する。

(中略)台湾の存続と発展のため、民主主義の力ですべての住民を団結させ、台湾を強くしたい。私たちは皆、主権があって初めて国が存在することを知っている。中華民国憲法からも分かるように、中華民国と中華人民共和国は互いに隷属していない。どの政党も併呑されることに反対し主権を守らなければならない」と述べました。

「独立した主権国家」の指導者であれば当然の見解ですが、台湾との統一を目指している中国からすれば、「台湾独立工作者」の本性を現した看過できない発言と見なされても不思議ではないでしょう。

5月23~24日、中国軍は台湾周辺で陸海空軍などの合同軍事演習を実施。同軍は演習について「台湾独立分裂勢力の『独立』を企てる行為への強力な戒めであり、干渉や挑発をする外部勢力への重大な警告」だと発表しました。

もちろん、この演習は台湾総統就任式の前から計画・準備されていたはずですが、習近平政権は、台湾を取り囲む大規模な軍事演習を実施することで軍事的な威圧を強め、台湾を全面封鎖できる能力と意志を示しました。

この演習については日本のメディアでもたくさん報じられましたので詳細は省きますが、台湾を包囲するように演習区域が設定されただけでなく、22年8月のペロシ米下院議長(当時)が訪台した時の演習時にはなかった台湾西部の澎湖諸島周辺にも演習区域が設定され、金門島や馬祖列島の周辺でも演習が実施されました。さらに東部の演習範囲が台湾本島に大きく接近し、台湾に対する威圧感が強まっていたのが特徴的でした。

今回の演習をみて強く感じられたのは、習近平政権が、台湾独立の動きを封じ、台湾の統一を進めるうえで、台湾を封鎖して経済的に締め上げる「封鎖作戦」を有力なオプションとして考えているのだろう、ということです。

2.中国政府高官の強硬姿勢

5月31日には、シンガポールで開催された第21回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)に出席した米国のオースティン米国防長官と中国の董軍国防相が直接会談をしました。米中国防相同士の対面による会談は2022年11月以来1年半ぶりだと伝えられました。

日本の報道では、米中国防相が、今後数カ月以内に中国軍と米軍の司令官が電話会談を行うことで合意し、年内にも危機コミュニケーション・ワーキンググループを招集することで合意したことなどを報じましたが、私が注目したのは、シャングリラ会合に参加した中国政府高官たちのかなり挑発的で強硬な発言です。

人民解放軍の幹部の一人は、5月23~24日に実施された軍事演習について、「将来起こり得る台湾との戦闘作戦のリハーサルだった」と発言していました。「この軍事演習は、人民解放軍の機動部隊が戦場の環境に慣れ、連携を強化し、指揮能力を向上させるための、実戦に最も近いものだ。私たちの戦闘計画のリハーサルだったと思う」とサウス・チャイナ・モーニング・ポストに対して述べていました。

この幹部はまた、人民解放軍と米軍との間に戦争のリスクがあると付け加え、ワシントンがフィリピンや台湾独立勢力を支援していることは「極端な」リスクをもたらす、と強く警告していました。

中国政府は、1年半ぶりの米中国防相会議に応じ、危機コミュニケーションチャンネルの開設に前向きな姿勢をみせたりしていますが、南シナ海においても台湾においても、米側に歩み寄る姿勢はまったく見せていません。

3.懸念される演習の「常態化」

先の軍事演習の後、中国国防省の報道官は、「今後『台湾独立』分離主義勢力が挑発するたびに、祖国の完全な統一が実現するまで、われわれの対抗措置は一歩一歩前進する」と発言していました。これは今後こうした演習を常態化させる意図を表明したものと考えられます。

平時から演習が常態化されてしまえば、「有事のための準備」として軍の部隊を動かしているのかどうかの判断が難しくなり、いつの間にか封鎖作戦が開始されている、ということになるかもしれません。明確に「平時」から「有事」に至るのではなく、いわゆるグレーゾーン事態のまま、ずるずると封鎖作戦が始められてしまう… これこそ中国が狙っていることなのかもしれません。

いずれにしても、今後の中台関係をみるうえでは、「グレーゾーン」の中でも、より「グレーの色が濃くなってきているのかどうか」、つまり中国側の意図や狙いを見極める情勢分析の重要性がますます高まってくると言えるでしょう。

 


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菅原 出
OASIS学校長(President)