再び緊張フェーズに突入するイラン・イスラエル関係
Jul 31, 2024こんにちは! オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。
- 1. ハマスとヒズボラ指導者の同時暗殺
- 2. 注目されるイランの反応
1.ハマスとヒズボラ指導者の同時暗殺
中東の緊張が再び、危険なほど高まってきました。
7月31日の早朝に、ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤ氏がイランで暗殺されたと報じられたのです。とてつもないビッグ・ニュースです。イラン革命防衛隊は、ハニヤ氏がイランの新大統領の宣誓式に出席した数時間後に死亡したことを確認し、調査中だと発表しましたが、イスラエルによる暗殺だと考えられています。
その少し前の30日夕方にはレバノンのベイルートでイスラム主義組織ヒズボラの幹部がミサイル攻撃を受けた、との報道も世界を駆け巡りました。これについてはイスラエル国防軍が、「ヒズボラの幹部を殺害した」と堂々と発表しました。
この直前の27日に、イスラエルはヒズボラの攻撃を受けて民間人が12名も殺害されたことから、その報復としてヒズボラのどこかの拠点を攻撃すると言われていました。しかし、ヒズボラの幹部たちが多数居住するレバノンの首都ベイルートを攻撃した場合には、ヒズボラとの全面戦争にエスカレートする可能性があるため、米政府はイスラエルに対して「ベイルートを攻撃するな」と要請していました。
イスラエルはバイデン政権の要請を無視してベイルートを攻撃するだけでなく、ほぼ同時にイランの首都テヘランにいたハマス最高幹部を暗殺したとすれば、これは凄まじい展開になってきました。
ハマスもヒズボラもイランの支援を受けており、イラン主導の「抵抗の枢軸」のメンバーであることは言うまでもありません。現在、イスラエルはハマスと停戦協議を続けていたはずですが、これで停戦協議が吹っ飛んだのは間違いありません。
イスラエルはハマスとヒズボラ指導者の同時暗殺作戦で、ガザ戦争を終結させるどころか、ヒズボラとの新たな戦争、さらにはイランとの軍事的衝突のリスクも高めてきたことになります。
2.注目されるイランの反応
今回ハマス政治指導者のハニヤ氏は、イランの首都テヘランにあるセーフハウスに滞在していたはずです。イラン政府によるゲストとして最高指導者ハメネイ師とも会談したばかりでした。イランにとっては深刻な主権侵害にあたり許すことはできないはずです。
今年の4月にはシリアのダマスカスのイラン大使館を侵害されただけであれだけの攻撃をしたことを思い出す必要があるでしょう。それとは比較にならない、テヘランの、外国要人のためのセーフハウスを攻撃されたとなれば、この攻撃の代償はもっと高くつく。少なくともそのようにイスラエルに思わせなければならないはずです。
イランは4月にダマスカスのイラン大使館を攻撃された際、こうした攻撃を受けておいて何もしなければ、この種の攻撃がスタンダードになってしまうことを恐れて、イスラエルに二度とこのような攻撃をさせないためにも大規模な報復攻撃を行ったのでした。
このロジックから考えれば、4月以上の攻撃をイラン本土からイスラエルに行わなければ、イスラエルのさらなる行動を抑止できない、ということになります。
注目すべきは、イランの最高指導者ハメネイ師が今回の攻撃に対してどのような声明を出すかでしょう。もし、イスラエルに「後悔させる」と報復を誓った場合、4月のようなイラン本土からの直接攻撃を行う可能性があると言えるでしょう。さらに今回はヒズボラの幹部もレバノンで暗殺された直後ですから、ヒズボラもイランと一緒に、一斉にイスラエルに対する攻撃を行う可能性もあり、そうなれば極めて危険な状況になるでしょう。
ちなみに4月のイランによるイスラエル攻撃の時には、ヒズボラはイスラエルへの攻撃を行わず、「全面戦争は望んでいない」というイランの意志を伝えるシグナルとして機能していました。今回はヒズボラの最高幹部ナスララ師の側近が殺害されていますから、イランが攻撃するとなれば、ヒズボラも同時にイスラエルを懲らしめる攻撃に打って出る可能性があります。
今後数日以内にイラン側の対応方針が固まるはずですから、注意深く、イランの反応を見極める必要があります。イラン・イスラエル関係は再び非常に危険なフェーズに入ったと言えます。
【新シリーズ公開のご案内】
田上英樹先生
「民間企業からみた経済安全保障」シリーズ(6月26日公開)
大場紀章先生
「エネルギーの観点からみたウクライナ戦争後の国際秩序」シリーズ(7月30日公開)
「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。
今後とも一緒に学んでいきましょう!
菅原 出
OASIS学校長(President)