米国はイスラエルを抑えることができるのか?
Mar 01, 2024こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。
1.武器売却をカードにイスラエルに圧力か?
バイデン米政権は、イスラエルのネタニヤフ政権に対し、ガザ南部の町ラファへの攻撃を延期してハマスとの停戦・人質交換合意に応じるように、との圧力を強めています。ラファへの攻撃とガザ停戦をめぐり、米国とイスラエルの関係が悪化し、バイデン政権のネタニヤフ政権への圧力が強まっています。
バイデン政権は、ネタニヤフ政権の行動を抑えてガザ戦争の停戦から恒久的な和平へと主導できるのか、それともネタニヤフ政権が米国の圧力を振り切ってラファ攻撃に踏み切るのか。ガザ戦争は非常に重要なフェーズに入っています。
パレスチナ自治区ガザ南部ラファには昨年10月の戦闘開始前からすでに約28万人が暮らしていましたが、イスラエル軍が激しい攻撃を続ける南部ハンユニスなどから流入が続き、現在では100万とも150万とも言われる数の避難民が集中。多くの避難民がテント生活を強いられています。
エジプト国境のラファに攻撃を仕掛ければ、これまで以上の人道的な被害が発生するだけでなく、この攻撃でガザ市民をエジプトのシナイ半島に追いやることになれば、エジプトはイスラエルとの平和条約を停止すると脅しています。
エジプトは国境沿いのシナイ半島にコンクリートの壁で囲われた緊急の避難場所を確保し、10万人程度が居住できるようなキャンプを整備していると伝えられています。エジプトは、国境を越えて大量のパレスチナ難民が自国領土内に流入することを何とか阻止したい構えです。イスラエルがラファ攻撃を始めれば、ガザの停戦を仲介してきたエジプトとイスラエルの関係は決定的に悪化し、外交関係が損なわれる可能性もあるでしょう。
2月16日にバイデン大統領は、一週間で2度目の電話会談をネタニヤフ首相と行い、ガザでの軍事作戦を停止し、ハマスとの人質交換交渉を進めるように、同首相に迫りました。
イスラエル国内でもネタニヤフ首相に対する批判が強まっています。17日には、政府が人質交換交渉からイスラエル代表団を引いたことに対して、人質の家族等が中心となってネタニヤフ首相に抗議するデモが開催されました。また、ネタニヤフ首相に対して早期の選挙を求める反政府デモも行われています。
また欧州諸国の間では、イスラエルとパレスチナの「二国家解決」に否定的なネタニヤフ首相に対する批判が強まり、パレスチナ国家を一方的に承認する案も浮上しています。これを受けてネタニヤフ政権は18日、「イスラエルの協議参加なしに一方的にパレスチナ国家を承認するという一部欧州諸国の計画に反対する」とする宣言を閣議決定しました。
バイデン政権も、ガザ戦争終結後に、サウジアラビアなどアラブ諸国とイスラエルの関係正常化と引き換えにパレスチナ国家樹立を進める包括的な計画を検討していることを明らかにしており、その最初のステップとしてガザ停戦と人質交換提案をイスラエルに受け入れるように圧力をかけているのです。
そんな中、2月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙は、バイデン米政権がイスラエルに対し、数千万ドル(数十億円)相当の新たな武器売却を検討していることを報じました。それによるとバイデン政権は、昨年10月のガザ戦争開始後にイスラエルに対して21,000発の精密誘導弾を供与し、イスラエルは約半分を消費したとのこと。残りの弾薬は、今後イスラエルがさらに19週間程度ガザでの戦争を継続するのに十分な量だ、と報じられています。
同紙によれば、「バイデン政権は、さらなる武器供与についてイスラエルが停戦・人質交換提案に同意することを条件にしてはいない」とのことですが、こんなにセンシティブなインテリジェンスをメディアにリークしたということは、バイデン政権が武器弾薬の供与をカードにイスラエルに圧力をかけていることを意味する、と筆者は考えています。
「武器売却を検討している」ということは同時に「武器を売却しないオプションも検討している」はずです。バイデン政権は遂に武器売却というカードを使ってイスラエルに圧力をかけているのだと思います。
2.国連安保理でイスラエルのガザ攻撃に反対の決議案
さらに驚きのニュースを2月20日にロイター通信が報じました。それによると米政府は、イスラエルとハマスの戦争における「一時停戦(temporary ceasefire)」を求め、同盟国イスラエルによるラファでの大規模な地上攻撃に「反対する」決議案を国連安全保障理事会に提案したというのです。
これまで米政府は、イスラエルとハマスの戦争に関するいかなる国連の行動においても、「停戦(ceasefire)」という言葉を使うことを拒否してきました。米政府は、イスラエルが主張するハマスに対する報復の権利を尊重し、イスラエルの目標達成を支持するため、一時的な戦闘停止(pause)には応じるものの、「停戦(ceasefire)」には反対し続けてきたのでした。
ところが今回の決議案の文面は、「人質全員の解放を前提に、可能な限り早期のガザ一時停戦(ceasefire)への支持を強調し、大規模な人道支援の提供に対するあらゆる障壁の撤廃を求める」となっています。
また米国の草案は、「現状では、ラファへの大規模な地上攻撃は、市民へのさらなる被害と、潜在的に近隣諸国への移住を含む、さらなる移住をもたらす」とし、このような動きは「地域の平和と安全保障に深刻な影響を与える可能性があり、現状ではこのような大規模な地上攻撃は行うべきではない」と強調しています。
この国連安保理決議案を米国が提出したということは、「イスラエルはいつまでも米国の外交的保護に頼ることはできない」という米国からイスラエルに対する厳しい警告です。バイデン政権は、ガザ戦争が始まって以来、最大級の圧力をネタニヤフ政権にかけていることになります。
さらに23日にブリンケン米国務長官は、ヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植地について、「国際法と矛盾する」と発表し、イスラエルの「国際法違反」を厳しく指摘しました。「わが政権は入植地の拡大に断固反対する」とブリンケン長官は記者会見で述べました。
こうした圧力を受けて、イスラエルがどのような行動をとるのか、注目されます。23日には、米、エジプト、カタールとイスラエルの情報機関長官がパリに集まって人質交換のための協議が再開されることになりました。
そして25日にホワイトハウスのサリバン米国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ガザ停戦交渉の関係者は、「合意の基本的な輪郭に暫定的に合意した」と語っています。
3.新たなガザ停戦案の内容
現在進められている停戦協議の内容は、「6週間の停戦とイスラエルに拘束されている数百人のパレスチナ人囚人の解放」と引き換えに、「ハマスがガザに拘束されている約40人の人質をイスラエルが解放すること」が含まれているとのことです。
しかしネタニヤフ首相は25日、合意への進展にはハマスが要求を軟化させることが必要だと述べています。そして、その一方で、いかなる合意もイスラエルのラファへの地上侵攻を遅らせることはできても、最終的に防ぐことはできないと主張。ネタニヤフ首相は、ラファへの地上侵攻について、「もし合意すれば多少遅れるだろう。しかし、それは起こる。いずれにせよやるだろう」と述べています。
ネタニヤフ首相は24日、翌週早々にも安全保障内閣を招集し、「ラファからの民間人の避難を含む、ラファにおける国防軍の作戦計画を承認する」と述べ、ラファ攻撃の準備を進める姿勢を崩していません。
米国とイスラエルの対立が激しさを増し、様々な駆け引きが展開されています。バイデン政権がネタニヤフ首相を抑えて停戦合意をまとめることができるのか。それともイスラエル軍がこのままラファ攻撃を開始してラマダン期間に突入してしまうのか。
ガザ戦争は極めて重要なフェーズに差しかかっています。
「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。
今後とも一緒に学んでいきましょう!
菅原 出
OASIS学校長(President)