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OASIS学校長 菅原出の「飛耳長目」 - 2023年3月14日

学校長 飛耳長目 Mar 14, 2023
連載コラム|菅原出飛耳長目

 こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

前回「飛耳長目」を配信してから早いもので一ヶ月が経過してしまいました。この間、世界では大きな動きが進行しています。

 

中国が先導するイランとサウジアラビアの国交回復

その中でも大きなサプライズは、何と言っても3月10日(金)に突如発表されたイランとサウジアラビアの国交回復でしょう。しかも、この歴史的とも言える発表がなされたのは中国の首都北京であり、「中国・イラン・サウジアラビアの3国による共同声明」という形で世界に伝えられました。

この合意は、「中東の緊張が緩和されてよかった」程度の話ではなく、中東地域の戦略的な秩序を塗り替える可能性のある極めて重要な動きです。

昨年1279日の3日間、習近平国家主席がサウジアラビアを訪問した際、習氏は、サウジアラビアとの首脳会談に加え、リヤドで開催された第1回「中国・アラブ首脳会議」や「中国・GCC首脳会議」に出席しました。この時の習氏の発言を聞いていると、イランの核問題や現地の領土紛争など非常に政治的にセンシティブな問題について言及しているのが気になりました。従来の中国とは異なる姿勢だったからです。

これは要するに、中国がこの地域の安全保障問題への関与をアラブ諸国側から求められていることの表れであり、しかも中国側もそれに応える意志があることを示しているものだ、と考えることができました。

そこで筆者は、「中国がアラブとイランの対立を抑え仲介者になり得る」ことを指摘し、万が一「中国によってサウジとイランの対立が解消までいかなくても、緩和させることができれば、中東は事実上の中国の勢力圏になってしまうおそれがある」とあちこちで書きました。もっともこの時筆者は、これほど早く中国がサウジとイランの仲介を進めてくるとは予想していませんでした。

実際に習近平氏は、このサウジ訪問時にサウジとイランの関係修復だけでなく、GCC諸国とイランの関係改善を提案していたそうです。今年の2月にはイランのライシ大統領が北京を3日間訪問して中国政府から歓待を受けました。イランの大統領の訪中は20年ぶりでしたが、さほど大きな合意も発表されず変だな、とは思っていたのですが、サウジとの国交回復の最終調整をしていたのでしょう。

崩れる米国の中東版NATO構想

中国がサウジ・イランの国交回復の根回しをしている同じ時期、米国のバイデン政権はサウジとイスラエルの関係正常化を密かに進めていました。米国は、トランプ政権の頃から、アラブ諸国とイスラエルの関係を改善させ、イランと対抗させる枠組みを作ろうとしてきました。すでにアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどはイスラエルとの関係正常化に踏み切りましたが、やはりアラブの盟主サウジアラビアがイスラエルと関係を正常化させなければ、イランを孤立させることはできません。

サウジはバイデン政権に対し、イスラエルとの国交正常化の条件を提示していたそうです。一つは米国がサウジの安全を保証すること、2つ目は民生用核開発へ協力すること、3つ目は米国のサウジに対する兵器売却規制を緩和することだった、と米ウォールストリート・ジャーナル紙は報じていました。

一つ目はともかく、二つ目と三つ目は、米国の国内事情を考えると簡単なことではありません。でも、もしサウジとイスラエルの国交正常化が実現すれば、アラブ諸国とイスラエルの安全保障面での正式な協力体制が構築され、いわゆる中東版NATOの実現にも道を開く可能性がありました。

しかしサウジは、米国に高い条件を提示しておいて、一方で中国の提案するイランとの関係正常化も進め、最終的に中国案に合意したことになります。中国が米国に先んじてサウジとイランの関係正常化をまとめてしまったと言うこともできるでしょう。

サウジは、米国がこれらの条件をクリアできないと判断したのでしょう。それよりもむしろ、中国を介してイランと直接関係を持ち、イランから「サウジを攻撃しない」保証を得た方がいいと考えたのだと思います。

イランがサウジに安全を保証し、そのディールを中国が保証する。それができればサウジが米国の提案する「アラブ・イスラエル同盟」に加わる意味はなくなります。

面白いことに、米国が根回しをしていたサウジ・イスラエル関係正常化に関する記事を米ウォールストリート・ジャーナル紙がスクープしたのが39日。その翌日に中国はサウジ・イラン国交回復を高らかに発表しました。

どうみても、米中のサウジを巡る外交戦は中国の勝利です。中国がサウジ・イランの関係修復をまとめたことで、米国の中東版NATO構想は崩れたことになります。

さあ、大変なことになってきました。米国はこのまま何もせずにいるのでしょうか?ここで巻き返せなければ、中東は事実上中国の勢力圏になってしまう可能性があります。これまで「飛耳長目」では、毎回、「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています」と書いてきました。

まさにその通りの変化が中東で起きていることを実感しています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要とされています。

3月8日には坂本正弘先生の「基軸通貨とドルと覇権システム①基軸通貨ドルとは?英米覇権の継承とポンド・ドルの交代過程」が、213日には佐藤丙午先生の「経済安全保障入門」第4弾が公開されています。

是非一緒に学んでいきましょう!

菅原 出

OASIS学校長(President